脳梗塞脳血管内治療科(聖マリアンナ医科大学)はカテーテル治療の専門科(脳卒中・脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)

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脳梗塞

「脳梗塞」は、脳細胞へ血液を送る血管がつまり、脳細胞が死んでしまう病気です。血管が詰まる原因は様々です。脳の血管が徐々に細くなって詰まったり、血栓(血のかたまり)が流れてきて突然つまることもあります。突然脳の血管が詰まると、半身麻痺や言語障害といった症状が突然生じます。
これまで脳梗塞は、「脳血栓症」と「脳塞栓症」に分けられていました。脳血栓症とは、脳内の血管が動脈硬化によってコレステロールや血栓が貯まって徐々に細くなり、最後に詰まってしまうものです。一方脳塞栓症は、脳以外の場所(心臓など)から血栓などの栓子が流れてきて、脳内の血管で詰まるものです。
しかし最近では脳梗塞を発症の原因によって以下の3つのタイプに分けるようになりました。細い血管が多発性に詰まる日本人に多いタイプの「ラクナ梗塞」、高血圧や糖尿病など動脈硬化の因子と最も関連の深い「アテローム血栓性脳梗塞」、さらに心房細動等の不整脈が原因となる「心原性脳塞栓症”」の3種類です。
それぞれの頻度は、ラクナ梗塞31%、アテローム血栓性脳梗塞33%、心原性脳塞栓症28%、その他の脳梗塞8%と報告されています。(2015年の脳卒中データバンクによる脳梗塞患者72777例の統計)
脳梗塞の治療は、脳梗塞の種類によって異なります。発症したらできるだけ早期に適切な検査で脳梗塞の原因を調べて、そのタイプに応じた治療を行う必要があります。脳梗塞と診断された方は、自分がどんなタイプの脳梗塞なのかを知っておいて下さい。

ラクナ梗塞

脳の深部の極めて細い血管(穿通枝と呼ばれる血管です)がつまるタイプの脳梗塞です。小さな梗塞が多発することが多く、無症状の微小梗塞(手足の麻痺などの症状が出ない無症候性脳梗塞)も多いようです。
”ラクナ”とは小さな空洞という意味です。通常小さなものでは3,4mmであり、大きなもので15-20mmの小さな梗塞をラクナ梗塞と呼びます。CT検査では小さなものは診断困難でしたが、MRI検査では明瞭に多数の小さな梗塞が診断できるようになりました。

高齢者に多く、症状は比較的ゆっくりと進行します。意識がなくなることはなく、夜間や早朝に発症し、朝起きたら手足のしびれや力が入らない(運動障害)、あるいは言葉が話しにくいといった症状に気がついて、病院に来られる方が多いようです。起こり方は通常緩徐で、段階的に悪化していきます。多発しなければ比較的軽症な場合が多いです。

日本では、脳梗塞の中で最も多いタイプで、以前は脳梗塞の半数以上がこのタイプでしたが、最近その割合は減少しています。高血圧が最も重要な危険因子であり、他には糖尿病、脂質異常症、喫煙が重要です。再発予防には危険因子の発見・管理が大切です。

  • ラクナ梗塞のCT

  • ラクナ梗塞MRI

ラクナ梗塞の治療

ラクナ梗塞の治療は抗血小板薬が中心です。急性期にはアスピリンやクロピドグレルの内服、あるいはオザグレルナトリウムの点滴が行われます。脳卒中治療ガイドライン2015によると、脳梗塞慢性期の再発予防のための抗血小板療法としては、シロスタゾール200mg/日、クロピドグレル75mg/日、アスピリン75-150mg/日(以上グレードA)、チクロピジン200mg/日(グレードB)が推奨されています。但し十分な血圧のコントロールが必要とされています。

アテローム血栓性脳梗塞

脳内の比較的太い動脈や頚動脈の動脈硬化が進行し、血栓を形成してつまらせたり、血栓が血管の壁からはがれて流れていって、脳内の深部の血管をつまらせてしまうことによって生じる脳梗塞です。”アテローム”とは、粥状硬化(じゅくじょうこうか)という意味で、動脈硬化でおこる血管の変性のことです。
発症時の症状は、比較的軽い場合が多いのですが、進行性に悪化する場合があります。 元来、欧米人に多いタイプの脳梗塞でしたが、欧米型の食生活に近づいた現在の日本では、徐々に増えてきています。高血圧、高脂血症、糖尿病などの動脈硬化の危険因子をたくさん持っている人に起こりやすい脳梗塞です。
また、このタイプの脳梗塞は、前触れである“一過性脳虚血発作”を生じていることが比較的多いとされます。アテローム硬化が進み、血管の狭窄率が高くなるほど、脳梗塞を発症する危険性が高まります。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳内の太い血管、中大脳動脈、内頸動脈、椎骨動脈、脳底動脈等にアテローム変化が起こりやすいために生じます。アテローム変化を生じた血管に血栓が形成され、血管が細くなって血流が悪くなり、その部位で閉塞してしまいます。また血栓がはがれて発症の血管が詰まることもあります。血栓が形成された部位のより細い血管が詰まってしまうこともあります。

  • アテローム血栓性梗塞のMRI

  • アテローム血栓性梗塞のMRA

    左中大脳動脈に高度狭窄を認めます

アテローム血栓性脳梗塞の治療

アテローム血栓性脳梗塞の薬物治療は抗血小板薬が中心です。急性期にはアスピリンやクロピドグレルの内服、あるいはオザグレルナトリウムの点滴が行われます。また抗凝固薬であるアルガトロバンの点滴治療も行われます。脳卒中治療ガイドライン2015によると、脳梗塞慢性期の再発予防のための抗血小板療法としては、シロスタゾール200mg/日、クロピドグレル75mg/日、アスピリン75-150mg/日(以上グレードA)、チクロピジン200mg/日(グレードB)が推奨されています。これは非心原性脳梗塞として、ラクナ梗塞と同様な薬剤です。
最近では、頚部頸動脈の分岐部に狭窄を生じる”頸動脈狭窄症”の患者さんが増えています。高度な狭窄では、薬物療法だけでは再発予防効果は不十分であり、外科的手術(頸動脈内膜剥離術)や脳血管内治療(ステント留置術)が必要なこともあります。さらに頭蓋内脳血管の狭窄に対して、バルーンカテーテルやステントを用いた脳血管内治療(経皮的血管拡張術)も行われるようになってきました。また発症数時間以内の超急性期の場合には、tPA静注療法や急性期脳血管内治療(血栓回収療法・血管拡張術・ステント留置術)が施行されることもあります。

心原性脳塞栓症

心臓内にできた血栓が脳内血管まで流れて閉塞させるタイプの脳梗塞です。特に心房細動という不整脈や心臓弁膜症などの心臓病をもっている方に多いと報告されています。特に最近、高齢者では、心房細動による脳塞栓症は増加しています。心臓は正常な拍動を示すときには血栓はできませんが、心房細動が生じると血栓が形成されやすくなります。
心房細動は高齢者に多く、70歳をこえると5~10%の人に起こるといわれています。多くの場合、心房細動そのものが命に関わることはありませんが、心房が細かく震えることによって、心房内の血流によどみができ、血栓を生じ、脳梗塞の原因となるところが問題です。 脳卒中データバンク2015によると、急性期脳梗塞患者(78098人)の中で、心房細動の合併率は男性21.8%、女性26.2%であり、華麗と共にその頻度は増加していました。80歳代では男性31%、女性35%に心房細動を認めました。
心臓内にできた血栓は、一旦心臓から出ると血流の多い脳へ向かう頚動脈や椎骨動脈へと流れ込み、それが脳内の太い血管を詰まらせるため、急激に意識障害などの重篤な症状が出現し、死に至ることもあります。心原性脳塞栓症では、それまで全く問題のなかった脳血管が突然詰まるため、重篤な症状が突然出現することになります。
閉塞させていた血栓がしばらくしてから溶けて流れ出すことがあります。つまってから数分、あるいは数時間以内であれば、大きな脳梗塞は形成されずに、症状は自然に回復することもあります。しかし、それ以降ですでに脳梗塞が完成されているところに再び血流が流れ出すと、出血を生じます。これを“出血性梗塞”といって、心原性脳塞栓症では比較的よく認められます。出血性梗塞は、小さい場合は症状は何も変化はありませんが、稀に大きな出血となり神経症状が急激に悪化することもあります。

  • 心原性脳塞栓症のCT画像の経時的変化

    左図:発症から3時間では異常所見は不鮮明、右図:24時間後では、脳梗塞巣は鮮明な低吸収(黒)となります。

  • 心原性脳塞栓のCTとMRI画像

    左図:発症1時間のCTでは異常所見はありません、右図:MRIの拡散強調画像では鮮明な高信号域(白)となります。

心原性脳塞栓症の治療

心原性脳塞栓症は、発症4.5時間以内の超急性期の場合には、tPA静注療法の適応となります。tPA投与にて効果が無い場合には、直ちに脳血管内治療(血栓回収療法)を行うことが推奨されています。この治療は発症からの時間が早ければ早いほど、そして再開通までの時間が早ければ早いほど、症状が直ちに回復し、最終的な後遺症も少なくなることが報告されています。
心原性脳塞栓症の薬物治療は、再発予防のために血栓の新たな形成を防ぐ抗凝固療法が中心となります。急性期はヘパリンという点滴薬を用います。その後は、ワルファリンという内服薬に切り替えることがこれまで標準的な治療でした。しかしワルファリンは、①定期的な血液検査を行い、用量調節が必要なこと、②薬剤抵抗性の患者がいること、③相互作用を示す薬剤が多いこと、④ビタミンKの多い食物(納豆、クロレラ、青汁、モロヘイヤなど)の摂取制限が必要なこと、⑤頭蓋内出血や消化管出血などの出血性合併症が起こること、などの問題点がありました。
そこで最近では、新規経口抗凝固薬(NOAC)と呼ばれるいくつかの薬が認可されました。この薬は非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓症のみに適応があります。現在、ダビガドラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン(全て薬品名)の4種類が販売されています。NOACの利点は、①頭蓋内出血の危険性が低い、②採血不要で、用量調節も必要ありません、③食事や併用薬の影響がほとんどない、④半減期が短く、効果の発現や消失までの時間が短い、などがあります。一方NOACの欠点は、①ワルファリンと比較して薬価がかなり高い、②採血によって効果の確認ができない、③解毒薬がない、④1-2回の飲み忘れで効果がなくなり、脳梗塞を起こす可能性がある、などです。

聖マリアンナ医科大学 脳血管内治療科

聖マリアンナ医科大学 脳血管内治療科

標榜科目 脳卒中科(脳神経内科)、脳神経外科

診療科長
脳卒中科教授 植田 敏浩
住所
川崎市宮前区菅生2-16-1
電話
044-977-8111