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急性期脳梗塞に対するtPA静注療法
脳梗塞の治療は緊急を要します!
脳梗塞の発症から数時間以内であれば、詰まった脳の血管内の血栓を溶かして血流を再開してやれば、症状が回復する可能性があります。血流再開が早ければ早いほど、症状が回復して、後遺症も軽くなる可能性も高くなります。
脳梗塞になった脳細胞が完全に死んでしまう前に、できる限り早く血流を再開して少しでも脳細胞を救ってやろうというのが“血栓溶解療法”です。その方法には、tPAという薬剤を静脈内に点滴する治療と、カテーテルによる脳血管内治療があります。血栓溶解療法は、一般的には発症から数時間以内しか効果はありません。
発症から4.5時間以内ではtPA静注療法が有効!
tPAとはどんな薬?
発症から4.5時間以内で、CTやMRI検査で脳梗塞の変化がごく僅かである場合に、tPAという薬剤を点滴(静脈内投与)すると閉塞血管が再開通して、症状が改善する可能性があります。このtPAの効果は、米国において偽薬を対象とした大規模な臨床試験(1995年)で、発症から3時間以内の脳梗塞に対して証明されました。その成績は脳梗塞から3か月後において後遺症が全くないか、ごく軽微な患者の割合は、偽薬治療群では26%であったのに対して、tPA治療群では39%と明らかに治療成績は良好でした。
欧米ではその後tPAは瞬く間に普及していきましたが、日本でこの薬が認可されたのは2005年10月になってからでした。tPAは1時間かけて点滴することで、脳内に詰まった血栓を溶解して、閉塞血管を再開通させる効果が認められています。
その後、tPAについての様々な臨床試験が行われた結果、適応時間の延長が証明され、2008年10月からは発症から4.5時間までの脳梗塞に使われるようになりました。
tPAはどんな患者に使えるのか
tPAはすべての脳梗塞の方に使えるわけではありません。その条件の代表的なものは以下のとおりです。
- 発症時間が特定されて、発症から4.5時間以内に投与開始できる場合
- 治療前のCT/MRI検査にて、脳梗塞の所見が全くないかごく軽微な場合
- 脳梗塞の症状が軽症から中等症ぐらいの場合
- tPA使用の禁忌となる血液検査の異常や、過去に重大な病気のない場合
- 脳卒中の専門医(脳神経外科医・神経内科医)の診断を受け、治療体制の整った施設であること。
tPAの効果と副作用
tPA治療によって血流が再開して、症状が明らかに改善する効果は約1/3に認められます。しかし、内頸動脈や脳底動脈等の太い血管が閉塞した場合には再開通率は低く、また昏睡状態など神経症状が重症の場合には効果は低いと報告されています。
市販後調査の中間解析(2008)では、治療後に後遺症がほぼ内割合は、全体では33%、75歳以上では25%、重症例では10%、75歳以上の昏睡などの重症ではわずか5%でした。
日本のtPA静注療法の市販後調査の最終報告(2010)と欧州の市販後調査(2007)の成績を図に示します。後遺症が全くない方は20%で、約半数の方が自立した生活に戻ることができました。
tPA静注療法では、症状の悪化を伴うような脳出血の合併症が約5%に発生します。大出血を生じた場合には生命に関わることもあります。治療を受ける場合には、担当医の説明をきちんと聞いて、合併症についても理解した上で、同意をする必要があります。
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tPA静注前後のMRA
治療前には右半身麻痺があり、左中大脳動脈が完全閉塞であった(左図)。tPA治療開始すると、徐々に半身麻痺は回復し、治療後の検査では閉塞していた血管が再開通をしていた(右図)。
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tPA静注後の脳出血
再開通が遅れてすでに脳梗塞に陥ってしまったところに再開通が起こると脳出血を生じて、症状がさらに悪化することがあります。
tPA治療を受けるためには
tPA静注療法はどこの病院で設けられるわけではありません。脳神経外科医や神経内科医が勤務して、CTやMRIなどの検査機器がいつでも稼働できる施設でないと治療は行えません。そしてtPAは救急病院に来院後、できるだけ早く投与を開始することが重要で有り、60分以内が目標とされています。このような脳卒中に対する救急診療体制を整えた病院であることが必要です。各地域でtPA静注療法がどの施設で受けられるかをあらかじめ調べておく必要があります。
東横病院脳血管内治療科では、24時間365日態勢で本治療を行う診療体制を整えています。最近1年間の来院してからtPA投与開始までの平均時間は50分以内です。